【信心銘】 しんじんめい

※16文字ごとに行番号ふってみました。


1. 至道無難、唯嫌揀擇、但莫憎愛、洞然明白、

道に至るのは難しいことではなく、
ただあれこれと選ぶことをキラって止めればよいだけです。
ただし、愛しいとか憎いの感情はそこになく、
洞窟の中にいるようなハッキリとした感覚があります。

2. 毫釐有差、天地懸隔、欲得現前、莫存順逆、

わずかでも差があれば、
天地ほどに隔たってしまい、
目の前の欲にしがみついて、
順番の正しいとか逆とかがあってもいけません。

3. 違順相爭、是爲心病、不識玄旨、徒勞念靜、

順番が違うといって互いに争うのは、
これは心の病気によるのであって、
その不思議な感覚を意識できなければ、
静けさを念じても無駄なこと。

4. 圓同大虚、無欠無餘、良由取捨、所以不如、

丸くて空っぽであり、
欠けたものも余ったものもありません。
良いものをと思って取捨すれば、
(目指すべき)そのものではなくなってしまうのです。

5. 莫逐有縁、勿住空忍、一種平懷、泯然自盡、

意識を消す必要もなく、
空っぽの感じを保つ必要もないのです。
ある種の均一な感覚であり、
なにもなくなって自分も尽きてしまいます。


6. 止動歸止、止更彌動、唯滯兩邊、寧知一種、

動きを止めてその静止した場所に帰り、
止めたあとは更にあなたは動くでしょう。
両端の間で滞ってみれば、
ある種のやすらぎのようなものを知ります。

7. 一種不通、兩處失功、遣有沒有、隨空背空、

なんだか行き場を失ってしまい、
二つの対立も意味をなくします。
やって来るものがあり、消え去るものがあり、
空っぽに随い、空っぽに脊を向けます。


8. 多言多慮、轉不相應、絶言絶慮、無處不通、

多くの言葉と多くの考えは、
伝えようとしてもその意味に対応することができず、
言葉もなく思いもなければ、
場所がなく行き先を失います。

9. 歸根得旨、隨照失宗、須臾返照、勝却前空、

もとの根っこに帰りその意味を手に入れます。
その照らされたものに随えば、語られる教えそのものが意味を失い、
どんなことでもすぐに答えが返ってきて、
すぐれているので、空っぽの感覚でさえ引っ込みます。


10. 前空轉變、皆由妄見、不用求眞、唯須息見、

空っぽの気配は、いろいろ変化するので、
みんないろいろと思い込みの見方をしますが、
真実を求める必要はなく、
ただ、自分の息をみれば良いだけです。

11. 二見不住、愼勿追尋、纔有是非、紛然失心、

二つのものを見る感覚ではなく、
慎重にそれを追い求めるわけでもなく、
わずかでも良し悪しの気持ちがあるならば、
ぼんやりとしながら心をなくしてみましょう。

12. 二由一有、一亦莫守、一心不生、萬法無咎、

二つのものには統合された一つが有り、
その一つもまた守るべきものではなく、
一つの心も生まれないとき、
すべてのはたらきの中には咎めるものもないのです。

13. 無咎無法、不生不心、能隨境滅、境逐能沈、

咎めることもなく、はたらきでもない、
生まれていないし、心でもない、
意識が感覚の消え去ったところに随えば、
感覚は意識を見ることがなくなります。


14. 境由能境、能由境能、欲知兩段、元是一空、

感覚というのは意識が感覚を見ているのであり、
意識というのは感覚が意識を感じているということです。
二つに分かれたものを知ろうとすれば、
そのもとは一つの空っぽ感のようなものなのです。

15. 一空同兩、齊含萬象、不見精粗、寧有偏黨、

一つの空っぽは二つと同じであり、
このリクツはすべての現象を含むものです。
細かい粗いといった区別を見ず、
偏った区別もなじませるようにします。


16. 大道體寛、無難無易、小見狐疑、轉急轉遅、

大きな道というのはゆったりとしていて、
難しくもなく容易でもなく、
よくみれば狐にバカされているのかもしれないし、
急に転がったり、ゆっくり転がったります。


17. 執之失度、必入邪路、放之自然、體無去住、

何かにこだわることは失敗のもとで、
かならず邪な道に入り込んでしまいます。
自由にまかせるのが本来のやりかたで、
体もなくこころの住むべき場所もありません。

18. 任性合道、逍遙絶惱、繋念乖眞、昏沈不好、

これだと思う感覚が道に合っているとすれば、
悩みも絶え、気分は気儘に歩き出します。
真実にそむいて思いが繋がれてしまうと、
暗がりに沈みあまりよい感じではありません。


19. 不好勞神、何用疎親、欲趣一乘、勿惡六塵、

神さまのために尽くしても良いことはないし、
忘れられていたその身近なものを使うのです。
世界でたった一つの乗り物を目指し、
色声香味触法の六境の感覚を避けないようにします。


20. 六塵不惡、還同正覺、智者無爲、愚人自縛、

六つの感覚を避けないようにすれば、
もとにもどって正しい目覚めとなり、
智慧を理解した者はなにも為すことがなく、
愚かな人は自分で作った縄に縛られてしまいます。

21. 法無異法、妄自愛著、將心用心、豈非大錯、

はたらきの中にはたらきでないものはなく、
わかっていない人は自分に執着し、
心をわざわざ持ってきて心を使おうとしますが、
どうしてそれが大きな間違いではないというのでしょうか?


22. 迷生寂亂、悟無好惡、一切二邊、妄自斟酌、

迷いは静けさと混乱の両方を生み、
それを理解できれば好き嫌いという感情もなくなります。
この世のすべてが二つに分かれると思うのは、
かん違いした理解です。


23. 夢幻空華、何勞把捉、得失是非、一時放却、

ゆめまぼろしや実体のない空中の華を、
なぜわざわざ捕らえようとするのでしょう。
手に入れるのは良し悪しを失った感覚であり、
一気に投げ捨ててしまえばよいのです。

24. 眼若不睡、諸夢自除、心若不異、萬法一如、

目がもし眠らずに、
あらゆる夢を排除し、
心がもしその何かと異ならないのならば、
すべてのはたらきが一つになることを知るでしょう。


25. 一如體玄、兀爾忘縁、萬法齊觀、歸復自然、

まるで一つのような不思議なその本体は、
固定されていてあなたの中にあって気ずかれていないもの、
すべてのはたらきは等しくそれに逢いまみえ、
またおのずからそこにかえるのです。

26. 泯其所以、不可方比、止動無動、動止無止、

消え去ったというその意味は、
どの場所とも比べることができないということ。
止まったということは動きのない動きであり、
動くということは止まらないことが静止しているのです。


27. 兩既不成、一何有爾、究境窮極、不存軌則、

二つのものはすでに成立せず、
その一というのもあなたの中にある何かで、
極まりつくした感覚のさらに奥にあるもの、
規範やルールといったものの中には存在しません。


28. 契心平等、所作倶息、狐疑淨盡、正信調直、

心の中には平等を感じる場所が有り、
身口意の三業も、息とともにあり、
狐につままれたように清められたものも消えてしまい、
正しく信じるならば、それを直接調べるようにします。


29. 一切不留、無可記憶、虚明自照、不勞心力、

すべてのものは留まらず、
想いを記すこともできません。
うつろな明かりが自分を照らし、
心をあれこれはたらかせることもありません。

30. 非思量處、識情難測、眞如法界、無他無自、

なにも思わない場所であり、
意識や感情で計ることはできず、
真実のものは、そのはたらきだけがある世界、
他のものはなく、自分もありません。


31. 要急相應、唯言不二、不二皆同、無不包容、

必要があればすぐに応え、
ただ二つではない、という言葉があるだけ、
二つでないのなら、それは皆同じもので、
無というのは何かを内に包む容器ではありません。

32. 十方智者、皆入此宗、宗非促延、一念萬年、

多くの智慧ある人たちは、
皆この教えに入門しているようなもので、
その教えというのは、長年伝わってきたものではなく、
その一つの思いが万年もの間存在するのです。


33. 無在不在、十方目前、極小同大、忘絶境界、

無は、在ることがない、という否定の存在で、
あらゆる場所を見渡してみれば、
極小のものも大きなものと同じでしかなく、
世界の境目が消えて忘れ去ったようなもの。

34. 極大同小、不見邊表、有即是無、無即是有、

極大のものも小さなものと同じであり、
世界の端っこをみないのです。
有るものが即座に無であり、
無もまた即座に有るものとなります。

35. 若不如是、必不須守、一即一切、一切即一、

もしこのようでないのなら、
なにかを守ったりしないようにすることが必要で、
一というのは即座にすべてであり、
すべてのものが即座に一と呼ばれるものになります。

36. 但能如是、何慮不畢、信心不二、不二信心、

ただし、うまくこのようになったとしても、
まだ終わりではないと思ってください。
その信じる心は二つではないもので、
二つではないことを心で信じるのです。


37. 言語道斷、非去來今。

言葉は道にたどり着かず、
今というのは去ることも来ることもありません。



(まりはうすのひとこと) 四文字切り文で、仏教経典みたいな形式です。これは隋の時代の鑑智禅師作だそうで、後の唐代文献とはかなり表現が違ってますね。ちょっと長すぎるので、抜粋にしたほうが読みやすいかも。

やや気になったのは19/20行目にある、六塵をきらわない、という表現ですけど、般若心経とは反対の意味になってます。これは般若心経のほうが合理的なんで、辞書にある、六塵=六境、とはせずに反対の、六塵=非六境、として六つの感覚を見ていない状態を六塵とすれば整合性が出ると思いますが・・